A:釜茹の水蛇 ストーシー
ラヴィリンソス下層のセントラルサーキットに、気候調整の要である属性増殖炉という施設があるんですが……これにイタズラをした、2匹のトロルがいましてね。どこからか捕まえてきたシーサーペントの幼体を、属性増殖炉の中に、投げ込んだというんです。それから数週間後、たっぷりと属性の力を吸収して、とてつもない巨体と凶暴性を手に入れた存在が這い出てきました。そう、これこそ「ストーシー」なのです。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
北洋の更に北部の地域にストーシ―という水神の神話がある。
ストーシ―は大蛇の姿をしているのだが自在にその姿を変化させることが出来るという。もともと北洋北部に浮かぶ小さな島とその周りの海域を自らテリトリーとする守り神であった。そのストーシ―の名を取り、名付けられたシーサーペントがラヴィリンソスに居る。このシーサーペントは驚いたことに自在に自分のエーテル属性を変化させることが出来るという。
エーテル属性とは本来、体質や血液型と同じく生涯変わらないし、一時的な魔法の効果ならともかく根本的には変えられるものではないというのが世界共通の認識であり定説だ。だがこのストーシ―と名付けられたシーサーペントカは生来この能力を持って生まれてきたわけではない。いたずら好きのトロルに属性増殖炉に放り込まれ高濃度の各エーテルに晒され続けた結果、属性を変化させることができる体質になったようだ。
属性増殖炉とは学術都市シャーレアンの賢人が世界各国から集めたありとあらゆる資料を適切に保管し、かつ植物や生物の研究開発や品種改良や農作物の質の向上を図る試みを進めるために最適な条件を整える必要がある。その為にあらゆる自然界のエーテルが収容された装置で、各エーテルの放出量を調整することで各エーテルのバランスを変化させ、それによりラヴィリンソス内の天候を操る事が出来るようにする装置なのだ。その装置の中にはプラズマが発生するほど高濃度のエーテルがその種類ごとに管理されていて嵐のようにぶつかり、混ざり合っている。実際に装置を起動させると幾つもの発光体が増殖炉内の空気中に発生する。その高濃度のエーテルの発光体に触れると、エーテルは生物の体内に浸潤しようと働き、それにより生物は細胞を引きはがすような激痛に襲われる。その激痛たるや正気を保ってはいられるようなものではないという。しかもエーテルが体内に浸潤すればエーテルの過剰摂取により罪喰いのように精神が侵食され、体は変異してしまう。また体内に浸潤したエーテルが体を内部から破壊するため、通常なら生きてはいられない。にもかかわらずこのシーサーペントは二週間にわたり、24時間ぶっ続けで高濃度のエーテルに晒されながらも生還した。やはり神話の神ストーシーに通じる何かを持っていたのではないかと疑いたくもなる。
いずれにしても、偶然にもトロルがイタズラで属性増殖器に放り込んだシーサーペントは、これまた偶然にもエーテルに対して異常とも言える程の耐性があり、その普通ではない環境で新たな能力を身に付け戻ってきたのだ。奇跡と呼ぶほかない。
属性増殖炉から脱出したストーシーはまず、自分をこんな目に合わせたトロル達に復讐しようとラヴィリンソス内を彷徨った。最深部のセンターサークル内でトロルを見つけたストーシーはトロル達に先制攻撃を仕掛けた。土・風・雷の属性を自由に操る事が確認されているストーシーだったがその特殊能力を使わず、その長い蛇のような体で簡単に2匹のトロルをアルケイオン保管院の飼育職員が見ている前でゆっくりと絞殺した。恐れおののいた職員がギルドシップに通報したというのが今回の流れだった。派遣されたあたし達は早速ラヴィリンソスへと入り、一番外側のアウターサーキットから内側に向かって行く手順で捜索を始めた。
ラヴィリンソスは想像したほど広くはない。だが、溶岩だまりの地形に合わせて自然環境を再現してあり、小さいながらも木が生い茂り、川も流れている。こんもりした丘があれば谷もある。サークル同士の境目は岩が積み重ねられて絶壁の崖が再現されている。そんな中に林道が作られていてその林道を中心に移動しながら捜索することになる。死角が多く飼育されている魔獣も多い。施設の中とは言え思った以上に捜索は難航した。
それでもラヴィリンソスを歩き回り始めて4日ほどたった頃、ようやくあたし達はストーシーに出会った。大きな岩陰で潜むように体を休めていたストーシーは赤から青へのグラデーションのような色鮮やかで艶やかな鱗を持つ美しく巨大なシーサーペントだった。ストーシーはあたし達に気付くとその鎌首をもたげ、普段は畳んで体の脇に沿わせている翼のような鰭を左右に大きく広げた。と同時に鮮やかだった体の色を紙芝居のページをめくる様にスーッと茶色に変化させた。
「なるほど、あれが属性の変化なのね」
あたしが呟いた。
「視覚で知らせてくれるなんて親切じゃない」
相方はあたしの呟きに答えるように言うとニヤッとしながら剣を抜き放った。